能動的に多拠点居住を選択している人ほどウェルビーイングが高い結果に越境的学習機会ととらえ、企業の人的資本への投資に活用を
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、「就業者の多拠点居住に関する定量調査」の結果を発表した。コロナ禍によるテレワーク普及などを背景に地方圏への移住や多拠点居住への関心が高まる中、本調査は、都市圏と地方を定期的に行き来する多拠点居住者に焦点をあて、その生活実態の把握および地域にもたらす効果(労働・消費)などを解き明かすことを目的に実施。
本調査の結果、一人の生活者としての個人が地域とのかかわりを通じてウェルビーイング(well-being)が高まることが明らかになり、企業(組織)にとっても多拠点居住を許容・支援することが人的資本への投資となり得ることが確認された。
主なトピックス
✔ 多拠点居住のきっかけは、在宅勤務やテレワークの浸透(15.3%)が最も高い
✔ 能動的な多拠点居住者は、幸福度・地域貢献度(労働・消費)共に高い
✔ 多拠点居住者のウェルビーイングにおいて、職業、地域、家庭生活や地域での人間関係の観点が重要
✔ 自治体・企業からの支援(助成金・補助金等)の活用意識*は約4割
*多拠点居住者の「活用した」「活用できなかった」計
※トピックスの詳細は2、3Pをご参照ください調査概要(背景)
多拠点居住者はコロナ禍をきっかけにテレワークの発展や在宅勤務の推進によって増加傾向にあります。本調査では急増する多拠点居住者に焦点を当て、その生活実態の把握、労働や消費といった地域にもたらす効果を明らかにするとともに、個人が地域とのかかわりを通じてウェルビーイングを高めるための観点(個人特性、自治体との結びつき、企業の人的資本投資、労働生産性など)からも分析しています。就業者がウェルビーイングな状態にあると、仕事において高いパフォーマンスが期待でき、欠勤や早期離職を抑制するとの研究も数多く報告されております。また、地域での仕事や活動は越境的学習機会として就業者の視野を広げ能力向上に寄与するとの報告もあります。本調査は、地方自治体と個人の問題にとどまらず、企業経営者や人事関係者においても人的資本への投資機会としてヒントが得られる調査結果となっています。
■本調査における「多拠点居住者」とは、主たる生活拠点を指定都市圏に持ちながら、別の都道府県にも生活拠点を設けて定期的に行き来する生活。
※仕事(現業の主務、副業・兼業など)やワーケーション、ボランティア、趣味、家庭事情による特定地域への定期的な移動を対象とし、会社都合の不定期な出張や観光による訪問は対象外とした。
要旨
本調査は、政令指定都市と東京23区内に主たる居住地を有する就業者20~69歳の男女2,500名を対象に実施しました。なお、本調査は2022年3月に発表した「地方移住に関する調査」の第2回目の調査となります。調査の結果、多拠点居住者、計画者、意向者2,500サンプルを多拠点居住の目的に基づいて、以下の5タイプに分類しています。また、5タイプの内、「多拠点生活志向」、「地域愛着」、「趣味満喫」は、能動的に多拠点居住を選択しているタイプと考えられます。
■調査結果トピックス
<個人観点>
① 多拠点居住を能動的に選択している人はウェルビーイングが高い
多拠点居住者は、計画者・意向者と比較して主観的幸福感が高い傾向。また、5つの生活タイプのうち、能動的に多拠点居住を選択している『多拠点生活志向』、『地域愛着』、『趣味満喫』タイプの主観的幸福感は、日本の平均値*よりも高い傾向。*World Happiness Report 2022:Japan【6.039】
② 多拠点居住者の中で、切実な悩みを抱えている割合は36.4%
多拠点居住を実践する上での課題は、「移動交通費の高さ」や「往来時の労力への負担」との回答が多く確認された。特に、家族支援タイプでその傾向が強い傾向。③ 多拠点居住者のウェルビーイングにおいて、職業、地域、家庭生活の観点が重要
『多拠点生活志向』『趣味満喫』は職業生活、『地域愛着』は地域生活、『家族支援』『受動ワーク』は家庭生活の影響が強い。なお、『趣味満喫』は職業生活における不幸せが生活全般のウェルビーイングを低下させる傾向。<企業観点>
① 多拠点居住のきっかけは、在宅勤務やテレワークの浸透(15.3%)が最も高い
タイプ別では多拠点生活志向タイプでは「TV・雑誌やSNSでの紹介」、地域愛着タイプでは「その地域での観光」、家族支援タイプでは「近親者の介護・死別」、受動的ワークタイプでは「異動やその地域での仕事」がきっかけとなる。② 多拠点居住開始時に転職・副業を始めたケースは約2割
特に多拠点生活志向タイプでは、多拠点居住開始時に転職した割合が27.8%。また、3人に1人が副業を始めており、いずれも全体平均と比べて高い傾向。<自治体観点>
① 能動的な多拠点居住者は、幸福度・地域貢献度(労働・消費)共に高い
自ら望んで多拠点居住を行っている就業者は、幸福度が日本平均(6.04pt)を上回る。また、地域活動や副業などへの参加率が高く、月間支出額も多い。 *World Happiness Report 2022:Japan【6.039】
② 自治体・企業からの支援(助成金・補助金等)の活用意識*は約4割
しかし、活用意識のある多拠点居住者の64.7%は「活用できなかった」と回答。
「移動や交通費」「住まい」に関する施策を求める意識が高い傾向。*「活用した」「活用できなかった」計③ 多拠点居住者のウェルビーイングには、地域の友人・知人との関係性が影響
趣味満喫・家族支援タイプでは、濃い関係性の友人数を増やすこと、多拠点生活志向・受動的ワークタイプでは、ゆるい関係性の友人・知人数を増やすことが有効。