■調査結果からの提言
パーソル総合研究所
主任研究員 井上 亮太郎<個人観点>
多拠点居住を行っている就業者のウェルビーイング(身体的・心理的・社会的により良い状態)は、計画者や意向者よりも良好であった。能動的に働き方や生活を自己選択することが人生をより豊かにするとも考えられる。しかし、現実的には多拠点居住には克服すべき課題(主に経済的支出)も少なくない。ボランティアや副業など地域活動への参画は、自身の職業能力や生活能力を高めるための越境的学習機会ともなり、将来への自己投資として考えることもできよう。現業でのパフォーマンス発揮に際しても、また人生をより豊かなものとするためにも、自分にとって望ましい環境を自己選択する姿勢は大切にしたい。<企業観点>
昨今、従業員の働きがいやエンゲージメントをいかに高めるかといった議論が熱を帯びている。しかし、万人に効果的な魔法の杖のような人事施策はなく、多様な個人に目を向けたマネジメントこそが肝要であろう。本調査から、従業員が能動的に多拠点居住という暮らし方を選択し、サブ拠点においても何らかの活動をイキイキと実践している状態にあると、その個人のウェルビーイングは高いことが確認された。就業者がウェルビーイングの高い状態にあると、仕事に対し熱意・没頭・集中する傾向が強まるとの先行研究から、多拠点居住の支援施策は福利厚生に留まらない。また、地域での副業やボランティア活動などを越境的学習機会と考えれば、就業者の能力開発やミドルシニアの活性化・セカンドキャリア支援といった従来の企業内教育では得難い人的資本への投資ともなろう。リテンションや優秀人材獲得への投資として、多拠点居住を許容・支援するための制度や体制構築、社内風土の醸成施策について検討されることを提案したい。
<自治体観点>
地域への移住促進政策は重要だが、都市圏在住者の移住・定住には一定のハードルがある。地域創生においては、目先の移住・定住にこだわりすぎず、地域において能動的に活動してくれる多様な人の交流にこそ目を向けたい。この点では多拠点居住者への期待は大きいと考える。しかし、多拠点居住を選択する人の関心もまた多様であり、情報発信や助成金などの支援施策に際して考慮すべき点が異なることを示唆している。とりわけ、ポテンシャルの高い「受動的ワークタイプ」の関心を地域活動に向けてもらうための施策に着目してはどうか。ゆるく「挨拶や会話を交わす知人」を増やすための施策と共に、地域での「役割」と「出番」をいかにつくり出すかが重要な検討ポイントとなろう。
【他拠点生活・ウェルビーイング】就業者の多拠点居住に関する調査結果が発表。多拠点居住のきっかけは、在宅勤務やテレワークの浸透(15.3%)が最も高い。 #多拠点居住 #働き方 #ウェルビーイング
2023年2月23日
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