アートが設置された特別室「月輪(がちりん)」3月より宿泊予約を開始
株式会社箔一(本社:石川県金沢市、代表取締役社長:浅野 達也)は、デザインエンジニアリングスタジオTANGENT(London,England 代表 吉本 英樹)と協業し、高野山の宿坊「恵光院」の壁面アート「月輪(がちりん)」への箔施工を行った。2022年3月より宿泊予約が開始されている。
■宿坊で体感する、仏教の精神世界
仏教の聖地のひとつである高野山。ここは弘法大師・空海によっておよそ1200年前に開かれ、いまも真言宗の本山として人々の信仰を集めています。修行僧たちは、人郷離れた静かな土地で、煩悩を捨て悟りを開くために仏の教えを学んでいます。
参拝に訪れた人々に癒しを提供する宿泊施設が「宿坊」です。なかでも「恵光院」は高野山で1200年もの歴史を持つ宿坊であり、旅装を解いてくつろげるだけでなく、瞑想や写経などの修行体験によって仏の教えを体感することもできます。今回、特別室をしつらえるのにあたり、英国と日本を拠点とするデザインエンジニアリングスタジオ「TANGENT」による壁面アートが制作されることとなり、その金箔施工を「箔一」にて行いました。
■気鋭のデザインエンジニアが手掛ける瞑想空間
今回の作品を手掛けたTANGENT代表の吉本 英樹氏は、東京大学で航空宇宙工学を学んだあと、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでデザインを学んだ気鋭のデザインエンジニアです。第一回Lexus Design Awardなど、数多くの世界的なアワードを受賞し、世界有数のラグジュアリーブランドと組んだアートプロジェクトも手掛けています。
吉本氏と箔一は、2021年より東京大学先端科学技術研究センターと石川県による共同プロジェクトに取り組んできました。そのなかで当社の寺社仏閣や商業建築における実績や金沢箔のもつ装飾性・デザイン性について、吉本氏が強く関心を持ったことから、今回のプロジェクトを箔一とともに手掛けることになりました。
■吉本 英樹 略歴
東京大学工学部航空宇宙工学科、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。2010年より渡英し、2016年 Royal College of Art(英国王立芸術学院) InnovationDesign Engineering 学科博士課程修了。博士(イノベーションデザイン工学)。工学とデザインの両方にバックグラウンドを持ち、テクノロジーと詩的なデザインを高度に融合したクリエーションを行う。2015年にロンドンで Tangent Design and Invention Ltd 創業。2018年より大阪芸術大学アートサイエンス学科客員准教授を兼務。2020年に東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に着任し、先端アートデザインラボを共同設立。
クライアント企業一例
HERMES(2019)/スイス・ジュネーヴにおいて開催された世界的な高級時計サロン「SIHH(Salon International de la Haute Horlogerie)」において、Hermesのアトリウムのインスタレーションと、ブース内外の計16のウィンドウ・ディスプレイをデザイン・制作。
BURJ KHALIFA(2016)/世界で最も高いタワー、Burj Khalifa。そのファサードは、地面から頂上に至るまでLED電飾で覆われており、映像を映し出すことができる。
特別な日の祝福に使われる、この文字どおり世界最大のディスプレイに、2016年ドバイデザインウィーク期間中に上映する作品の制作依頼を受けた。
受賞歴(抜粋)
2012 Red Dot Design Concept, Best of the Best Award
2012 output Award, Winner
2013 Lexus Design Award, Winner
2016 Milano Design Award, Best Engagement by IED
INAHO(2013)/人が近くを通るとセンサーが感知し、穂が揺れ、光り始める。Lexus Design Awardを受賞した作品。
■真言密教の瞑想法に着想を得たアート
吉本氏によって生み出されたこのアート作品は「月輪(がちりん)」と名付けられました。高野山真言密教には「月輪観(がちりんかん)」と呼ばれる瞑想法があります。月の輪に見立てた真円を見つめ、その月輪を自己の心の中に映し、さらに自己の身体全体、その部屋全体へと月輪の心像を広げ、最終的には全宇宙にまで広げていく瞑想法です。
この作品は月輪観に着想を得ています。真円から湧き上がる金箔の渦が壁面いっぱいに広がり、さらに別の次元の宇宙にワープし広がっていくかのような景色を表しています。真円には光源が設置され、周囲に向かって光が放たれます。宿坊恵光院の名前に因み、また真言密教の教主である大日如来を尊び、光によって金箔を浮かび上がらせるような表現となっています。
■金箔の伝統的な美が、アートに生命を吹き込む
この作品のなかで、金箔が大きな役割を担っています。金箔は仏教美術においては古くから重要な素材とされてきました。専門書によると、「金は装飾性と聖性という両義性を有しており、そのため仏教美術では特に好まれたといえよう」(東京書籍『仏教美術事典』2002)とあります。この作品では、伝統的な素材を用いて歴史の連続性を担保しつつ、新しい技法によって現代に生きる私たちの感性に訴える表現となっています。
制作の際には、決定したデザインをシルクスクリーンで転写し、ふるいで細かくした金箔をふって少しずつ模様を浮かび上がらせていきました。金箔独特のゆらぎのある輝きや、箔の粗さ違いよる表情の変化、また箔を払う際に生じる擦れといった、職人の手作業ならではの偶然性が作品に新たな魅力を付け加えています。
デジタルデータによって緻密に組み立てられたデザインが、職人の手で再現されるプロセスを通じて微妙に変化し、デジタル技術と伝統技法が融合したオリジナリティある作品となりました。
人を引き込み瞑想の世界にいざなう力のあるアートとなっています。
このアートが設置された特別室もまた「月輪(がちりん)」と名付けられ、2022年3月より宿泊予約が開始されています。
宿泊予約サイト:
1200年の伝統ある高野山の宿坊「恵光院」に 金沢箔のアートによる新しい瞑想空間が誕生 | 株式会社箔一