空き家問題は全国で発生しており、今地方自治体は問題解決への糸口を探しています。先日当サイトが掲載した「行政代執行」という方法も考えられますが、増加する空き家問題をすべて自治体が税金を使って解決することは難しく、頭を悩ませている実情があります。
では、空き家問題に取り組む地方の現状とは、一体どのようなものでしょうか。今回は空き家問題を自治体と連携しながら解決を目指している、福井県鯖江市の「さばえ空き家・空き地管理協会」の会長 奥田聖次さん、副会長 高間彰一さんに活動内容や今後の展望をお聞きしました。
「さばえ空き家・空き地管理協会」の設立経緯
めがねの生産で知られる福井県鯖江市は、昭和30年に福井県内2町5村が合併して生まれた自治体です。令和5年2月現在、約6万9000人が暮らす穏やかな街ですが、全国の自治体と同様に空き家問題に直面しています。
長期間活用されていない空き家や空き地問題について、鯖江市でも長年協議が行われてきました。しかし、限られた予算と人員の中で市内の空き家・空き地のすべてを管理することは難しく、不動産に携わる専門家との連携を模索していました。そこで、誕生したのが「さばえ空き家・空き地協会」です。
不動産分野のエキスパートたちが集結
奥田氏
「平成30年に設立された当協会は、鯖江市と連携して長期間利活用されてない空き家や空き地の情報収集を行い、地域ぐるみで解決を目指しています。ひとり暮らしの高齢者世帯などの情報も収集しており、空き家予備軍も把握し、相談にも応じています。宅地建物取引業や司法書士、解体会社など不動産分野のエキスパートが集結し、当協会を支えています。鯖江市と連携しており、適切な問題解決に結び付くようにサポートしています。
当協会に寄せられる空き家問題の中身は、すでに管理が行き届かなくなっており、解体せざるを得ないケースが多くなっています。今後は空き家予備軍の方々に呼びかけ、適切な段階で売却につなげ、解体負担が依頼者にのしかからないようにサポートしたいと考えています。」
高間氏
「月に数回、鯖江市の図書館や市民活動交流センターなどで相談会も開催しています。事前予約制を採用していますが、毎回相談枠が埋まるほど盛況です。相続が影響しているご相談も多く、相談内容に応じて必要なサポートをご紹介しています。」
地方が直面する空き家問題|空き家予備軍を可視化せよ
さばえ空き家・空き地管理協会では、相談業務や出前講座の機会を通して、市民に「空き家問題」の周知も図っています。相談会事業では、すでに空き家問題に直面した方が悩みを抱えた上で相談に来られていますが、相談内容をヒアリングすると「解体」しか解決方法ができないほど、長年放置されている住まいが多いためです。
奥田氏
「相続をした際に、被相続人が十分な現金や預貯金などの相続財産を遺してくれた上で、管理に困っている空き家を解体できるなら、相談者の悩みは早期に解決できます。解体費用が相続財産から捻出できますよね。しかし、空き家問題の現場では、空き家以外の相続財産はほとんどなく、解体するとなると相続人が重い解体費用の負担を背負うケースも多いのです。葬儀、仏壇の解体など、色んな費用を捻出し、さらには空き家の解体費用…こうなる前に、私たちももっと何かできなかったのかな、と考えてしまうケースが多いです。」
そこで、さばえ空き家・空き地管理協会では、今後さらに「空き家予備軍」の可視化に力を入れる予定です。
同居する方がいなくなった時点で、空き家予備軍
福井県鯖江市はもちろん、地方は暮らしにくくなった場所から子が進学や就職、結婚を機会に市街地や他都道府県に引っ越しをしてしまう問題を抱えています。移住政策やUターン事業などは全国の自治体が力を入れていますが、それでも高齢となった親が地方に残り、子は別の場所で拠点を構えるケースは後を絶ちません。高齢となった親が認知症や要介護の状態となってしまうと、成年後見制度を活用しなければ売却すらできないリスクもあります。
同居をする子などがいなくなった時点で、今後その住まいは空き家となる可能性は高く、早くから問題解決に向けて動き出す必要があります。例えば、解決方法として考えられるのは以下の方法です。
・遺言書で空き家を相続する方を決めておく
・住まいが劣化してしまう前に、売却を検討する
・ご近所の方と連携し、空き家が欲しい方を探しておく
・現在お住まいの方が解体を行い、更地化しておく etc.
空き家予備軍の段階から「空き家問題の当事者」として自覚し、解決方法を学んでいくことで、次世代の相続予定者の負担を減らすことができます。さばえ空き家・空き地管理協会では、今後地域や高齢者の方向けに空き家の勉強会を開催し、前向きに空き家問題に向き合ってもらう機会を増やす予定です。
空き家は管理の時代|適切な管理は専門家を専門家に依頼を
鯖江市と連携しながら空き家問題の啓蒙・相談事業を展開するさばえ空き家・空き地管理協会では、今後「管理業務」の啓蒙にも力を入れていくそうです。
奥田氏
「空き家は放置してしまうと管理責任が発生し、地域住民や市との間で大きなトラブルになる可能性があります。しかし、住んでいない空き家を管理することは大変ですよね。そこで、鯖江市の補助(※1)も受けながら、空き家の管理を委託してもらう事業も強化したいと考えています。空き家は手入れが無ければ害虫が発生したり、放火などのいたずらリスクも上がります。適切な管理を行うことで、売却のめども付きやすくなり、特定空家を増やさない効果もあります。」
高間氏
「空き家の放置は所有者にとっても地域の方にとっても、大きなリスクです。早い段階から管理を開始すれば、家が倒壊するなどのトラブルも防げます。管理事業は空き家所有者等への報告も行っており、専門家が適切に管理するためご安心頂けます。」
空き家問題に直面する地方では、こうした地道な取り組みにより空き家の放置を未然に防ごうとしています。
(※1)鯖江市 空き家管理代行サービスの利用にかかる費用を補助します
空き家問題は早期着手を|円満な解決を目指して
地方の空き家は売却が難しい場所に立地していることも多く、適切に管理をしていても有効活用が難しい可能性があります。しかし、早期から空き家の売却や解体を目指せば、移住や民泊にも関心が高まっている今、問題解決につながる可能性があります。空き家予備軍となった段階で、将来に重い課題を残さないように家族ぐるみで問題を話し合うことがおすすめです。
また、空き家問題は相続や土地の境界問題が絡んでいることも多く、一人で悩んでいても解決方法がわからないケースも多くなっています。少しでもより良い解決を目指すためには、今回お話を聞かせて頂いたような自治体と連携する管理協会や、賃貸・売却なども視野に、空き家問題に取り組む専門家にご相談されることがおすすめです。
参考サイト さばえ空き家・空き地管理協会