地方を中心に問題が顕著化している「空き家問題」ですが、近年さまざまな自治体が空き家問題の解消に向けて取り組みを強化していることをご存知でしょうか。自治体は地域住民の方々からの相談・要望を受ける機会が多く、空き家問題についての相談も多く寄せられています。放置された空き家の破損や汚損、倒壊リスクに関する相談はもちろんのこと、いたずらの多発やゴミの投機など、放置されている空き家にはさまざまな問題が発生しています。相談を受けた自治体では、空き家の持ち主を調査したり、管理者の特定を急いでおり、空き家が生み出すトラブルの解消に力を入れています。そこで、今回の記事では「空き家の管理責任」について解説します。空き家の放置はデメリットだらけです。管理不全の空き家にはさまざまなリスクについても紹介しますので、ぜひご一読ください。
空き家はなぜ危険?火災や倒壊リスクの現状とは
近年空き家問題は全国的に広がっており、管理者が特定できない建物や土地の増加から「相続登記の義務化」が進められるなど、国を挙げて空き家問題の解消への動きが活発化しています。実際に空き家を抱えている方や、抱える可能性がある方は、今後どうするべきか頭を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。空き家問題は所有している方からすると、固定資産税や解体費用など「お金」に関する問題に目が向きがちです。しかし、空き家の近隣に住んでいる方々や自治体からすると、「管理」に関することが大きな問題となっています。
放置されている空き家には、以下のようなトラブルが多発しています。
・屋根や外壁などの破損・汚損や飛散
放置されている空き家は想像以上のスピードで劣化していくため、住まいの外観部分に大きなトラブルが発生しています。台風や強風により、破損や飛散のトラブルも起きており、近隣の方々からすると大きな懸念事項です。
・塀などの倒壊
古い家屋の周囲にはブロック塀が施工されていることが多いですが、長年放置されていると劣化し、倒壊するおそれがあります。ブロック塀の倒壊は2018年に大阪で地震をきっかけに死亡事故に発展した事案もあり、適切な管理が必要です。
・火災や落書きなどのいたずら
放置されている空き家はいたずらを受けやすいことをご存知でしょうか。2018年には埼玉県で空き家火災が発生し、不審火として報道されました。放置されている空き家は侵入されやすく、火遊びや落書きなどのいたずらが多発しています。景観にも大きな影響を与えるため、近隣の方々からの苦情も多いトラブルです。
このように管理が行き届いていない空き家は非常に危険で、大きなトラブルに発展する可能性があります。自治体の多くは空き家に関する多くの苦情を受けており、対応に苦慮しています。そこで、新潟県見附市の場合、空き家に関して以下のような条例を作り、対策に乗り出しました。
■新潟県見附市における空き家問題への取り組み
新潟県見附市では、令和3年3月に「見附市空家等の適正管理に関する条例」を市議会定例会で議決しました。本条例は、すでに平成24年6月に制定されていた「見附市空家等の適正管理に関する条例」(旧条例)を改正したものです。見附市では周辺住民の生命や身体、財産を保護すべき立場から、「常時無人の建物など」特に危険な状態にある空き家に対し、所有者や管理者等の自己責任による適正な管理を働きかけています。
市独自の対策として、周囲への危険が切迫していると認められれば、所有者等の同意なく最低限の安全を確保する措置を行い、その費用の請求を行うこととしており、管理に向けて自治体が明確に関与していく姿勢を見せています。また、相続財産・行方不明財産管理人選任の申し立てを行うことも条例内で策定しており、危険な空き家を放置しない取り組みを強化しています。今後その他の多くの自治体も、市民生活を守るために積極的に空き家問題の解決に乗り出すと見られています。
参考URL 新潟県見附市「空き家等の適正管理に関する条例」
「空き家の管理責任」とは?
空き家の放置はトラブルに発展する可能性があり、自治体も積極的に解決に乗り出しています。所有者側としては、解体にも売却にも労力がかかるため、つい放置したくなるかもしれません。特に遠方にあり、縁もゆかりも薄い親族の建物を相続した場合には、どのように管理すればいいのかわからないでしょう。しかし、空き家の所有者には「管理責任」が発生することはご存知でしょうか。
■民法第717条1項
民法第717条1項 「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が損害の賠償をしなければならない。」
上記は民法からの引用です。空き家には基本的に占有者がおらず、その責任は「所有者」に発生します。たとえば、空き家が倒壊し隣家に損害を与えたら、空き家の所有者は損害賠償責任を負うのです。ここで言う所有者が既に鬼籍の場合には、相続人が責任を負う必要があります。
■民法第940条1項
民法第940条1項 「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
上記も民法からの引用ですが、相続放棄に関する内容です。相続放棄をしても、次の相続人が管理するまでは空き家の管理責任を負うことを意味します。なお、この規定は令和5年4月1日に改正され、現に占有している相続財産に限り、管理責任を負う内容に変更されます。つまり、相続放棄をした方の管理責任は少し軽くなると言えるでしょう。しかし、空き家を放置し続けることには変わりなく、近隣の方々から解体などの対処を求められる可能性は否定できません。すると、放棄後はむやみに解体はできないため、相続財産管理人の申立てが現実的な道となります。
管理責任に悩まされないために
空き家は放置すればするほど、家の状態は悪化し売却がしにくくなります。今回述べたように、管理責任という重い負担は民法上でも規定されていることも忘れてはいけません。また、不審火も実際に起きていることから、放置するとリスクが高まってしまうこともわかります。そこで、空き家の管理責任に悩まされないためには、以下の対策を検討しておきましょう。
■自治体へ早めに相談する
今回条例の制定部分で紹介した新潟県見附市を例に挙げると、空き家対策を強化しており「見附市空き家バンク制度」を立ち上げています。市のHPにも空き家問題について特集しているので、相談にも応じてくれるでしょう。各自治体では、空き家問題をどう処理すべきか相談に応じています。法的なアドバイスを受けられる場合もあるので、まずは空き家の所在がある自治体に早めに相談しましょう。
■資産価値がある場合は早めに売却を
住まいは放置すればするほど資産価値が下がります。空き家になりたての住まいの場合は、早めに売却をすることも視野に入れましょう。不動産を所有している方が元気なうちに、売却のめどをつけておくことがおすすめです。終活の一環として、次世代に空き家問題を発生させないようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、空き家の「管理責任」について自治体の取り組みや民法にも触れながら、詳しく解説を行いました。活用可能な空き家の場合には、売却や空き家バンクへの登録などの方法が考えられます。まずは放置をさせないためにも、早めに対策を開始しましょう。