「相続放棄」は空き家問題の救世主?相続放棄手続きの注意点や放棄後の空き家管理の実態とは【アキヤリノバコラム】 #空き家 #空き家問題 #相続放棄 #相続財産管理人

日本全国で増加している「空き家問題」ですが、相続が発生したら空き家を相続放棄すれば良い、と考えている方も多いのではないでしょうか。すでに子は独立して別居しており、現在実家に住まわれている親が亡くなったら空き家化することが想定されるケースも多くなっています。では、相続発生後に空き家問題に直面したら、一体どうするべきでしょうか。少子高齢化が進んでいる日本においては、常に相続人である配偶者や第1順位である子、第2順位である直系尊属(両親・祖父母)がおらず第3順位の兄弟姉妹が突然空き家を相続することも予想されます。そこで、今回の記事は「相続放棄と空き家」をテーマにお送りします。いつ、だれが相続人になるかわからなくなっている今だからこそ知っておきたい相続放棄の手続きや注意点、放棄後の空き家管理の実態に触れますので、ぜひご一読ください。

「相続放棄」とはそもそもどんな手続き?

相続は「被相続人が死亡した日」から開始されます。この日を相続開始日と言います。相続は現金や預貯金、有価証券や車両、そして不動産などが対象となり、相続人が承継します。プラスの財産の場合は相続人間で協議を行ったり、遺言書に沿ったりなどの方法で分割を行いますが、被相続人が遺してくれた財産は常にプラスの財産ばかりではありません。住宅ローンや借金、滞納税などマイナスの財産も承継します。あまりにもマイナスの財産が多く返済のめどがつかない場合や、家族と既に疎遠になっており財産が不要な場合には、「相続放棄」をすることもできます。相続放棄とは、被相続人の遺した財産を一切放棄することを意味します。手続きの方法は以下のとおりです。

  • 相続が開始したことを知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ「申述書」等を提出する
  • 相続開始を知った日が起点となるため、死去後しばらくしてから自身の相続開始を知った場合でも手続きできる
  • 財産調査が終わらない、突然債務があることが分かった、などの理由があれば3か月以内に申立てできない旨を沿え、家庭裁判所に期間の伸長を申立てできる

参考URL 裁判所 相続放棄の申述

相続放棄は部分的な放棄ができない

将来的に相続を予定されている場合、ご自身にとって不要な財産のみをピックアップして相続放棄をすれば良い、と思っている方もおられます。しかし、相続放棄は「一切の放棄」であるため、部分的な放棄はできないのです。つまり、住んでいない空き家だけを相続放棄することはできません。同様に、被相続人が遺した債務だけを放棄することもできません。マイナスの財産を放棄するためには、預貯金や不動産なども放棄する必要があるのです。あまり運用されていないですが、債務がありつつもどうしても残したい財産(主に住まいが多い)がある場合は、限定承認(※1)と言う方法もあります。

(※1)限定承認
被相続人が遺したプラスの財産を限度に、マイナスの財産も継承する方法。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に3か月以内に申述する必要がある。相続人全員の同意が必要であり、清算手続きなどの煩雑さからあまり利用されていない。

相続放棄は空き家問題の救世主?

相続放棄は先に述べたようにすべての相続財産を放棄します。相続財産に含まれない財産(お墓や仏壇、死亡によって発生した生命保険金など)は手元に残せるため、あえて相続放棄を決断する人も少なくありません。愛知県司法書士会「相続のカタチ」によると、2020年の司法統計年報では全国の家庭裁判所で受理された「相続放棄の申述の受理」件数は23万4732件に上っているとされます。2016年から20年までの5年間の受理件数の推移をみると、年々増加傾向にあると判明しています。特に単身者にとっては遠方の空き家管理が重い課題となっており、司法書士や弁護士などに相続放棄を相談するケースも少なくありません。では、相続放棄は空き家問題解決の救世主なのでしょうか。空き家に関する相続放棄には以下2つの注意点があります。

参考URL 愛知県司法書士会 相続のカタチ 「年々増えている相続放棄、その注意点は?」

1.相続放棄は相続人順位が移動するため、他の親族を巻き込んでしまうことも

ご自身が相続放棄をすると、そもそも相続人がいなかったことになり、次の相続人へ相続の権利が移動します。例えば、父の持ち物であった空き家を子が全員放棄すると、生存している場合は直系尊属の祖父母に相続権が移動します。祖父母が死去されている、あるいは放棄した場合には父の兄弟姉妹に相続権が移動します。(配偶者は常に相続人のため放棄しても順位は移動しません)ご自身が相続放棄をすることで、場合によっては空き家の管理義務が他の親族に移動し、トラブルになる可能性があるのです。親族の死去を知らない、疎遠となっている方に相続権が移動することも考えられます。

2.相続財産管理人の申立てが必要になる場合も

相続人のどなたかが空き家を引き継ぐ場合は問題が収束しますが、被相続人の債務が大きい場合などは相続人全員が相続放棄をすることが予想されます。すると、空き家も含めて誰も被相続人の財産を管理できなくなるため、家庭裁判所に「相続財産管理人の選任申立て」を行う必要があるのです。最後に相続放棄をした方や、債権者などが申立てを行い、財産管理を行える方を家庭裁判所に選んでもらう手続きです。相続財産管理人には主に弁護士や司法書士が選任されています。相続財産管理人が選任するまでの間、民法940条1項(※2)にあるように、空き家の管理責任は相続人だった方が担う必要があります。つまり、相続放棄をした方も、空き家管理の実態としては一定期間、空き家の管理責任を負うのです。

(※2)民法940条1項
「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

空き家問題は生前から相続放棄以外の選択肢も模索しよう

相続放棄は限定承認とは異なり、相続人一人ひとりが他の相続人の同意を得ずとも単独で手続きできます。しかし、相続の権利が移動することにより、相続人となることを知らなかった親族が「寝耳に水」のような状態のまま、空き家管理のリスクを負ってしまう可能性があります。相続放棄を行うなら、次順位の方を巻き込むリスクも考えておきましょう。

相続人全員が相続放棄を終えると空き家を管理すべき人が不在になります。しかし、管理責任を問われ周辺の方々から損害賠償請求を受ける可能性があります。管理責任から降りるためにも相続財産管理人を選任してもらうことが望ましいのです。すると、数十万の予納金を準備し、家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。また、その他の相続問題もある場合には、弁護士や司法書士に業務を依頼する必要もあります。

高額の債務を放棄できる相続放棄はメリットもありますが、空き家問題の解決のためだけに相続放棄を進めることはそれなりにリスクもあるのです。決して問題解決の救世主とは言い切れません。生前から空き家や空き家となり得る建物の管理について、家族間で方針を話し合ったり、売却や譲渡なども含めて十分に検討しておくことが望ましいでしょう。

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