度々ニュースでも取り上げられる「空き家問題」。突然の相続で空き家となってしまったり、賃貸として所有していたけれど空室が続いて空き家状態となってしまったり…
「活用が難しそうだから、解体するものアリなのかな」
空き家の活用方法が見出せずに、こう考える人もいるでしょう。うまく活用できれば貴重な資産となる空き家ですが、活用できないと管理費用と手間だけがかかってしまいます。
この記事では空き家を解体することのメリット・デメリットを両方とも解説します。空き家の管理に困っている人が解体するか否か判断できるように解説していますので、ぜひ最後までお読みください。
空き家解体のメリット
賃貸として貸すことができれば、不労所得にもなり得る空き家。しかし、借主が長期間見つからないと労力とお金だけがすり減っていきます。そのようなときは、思い切って解体してしまうのも手です。空き家を解体するメリットを3つ紹介します。
・売却が楽になる
・管理の手間がなくなる
・周辺住民の苦情を防げる
売却が楽になる
空き家が残っている土地よりも、解体して更地にしてしまった方が早く売却できる可能性があります。場合によっては金額も解体した方が高いことも考えられます。
もし、そのまま住むことができる状態であれば賃貸として貸すことができたり、本人が住んだりできます。しかし、そうでなければ購入した人は空き家を解体しなくてはいけません。その手間や費用がかかるため、空き家が残っていると更地よりも安い値段となる可能性があります。
老朽化した建物が残っている土地を「古家付土地」といいます。古家に明確な定義はありませんが、木造住宅の法定耐用年数が22年であるため、築20年以上である場合は古家付土地として販売されることが多いです。
相続で空き家付きの土地を手にした場合、早期に売却できることはメリットでもあります。なぜなら、相続人にとって税制面での優遇があるからです。相続した日から3年を経過する年の12月31日までに、被相続人が住んでいた家屋や、解体後の土地を売却したときに3,000万円の特別控除が受けられます。
通常、不動産を売却したときの譲渡所得は、売却額から取得費用と譲渡費用を差し引いた金額に税率を掛けて算出します。しかし、特別控除を受けられると、売却額から取得費用と譲渡費用に加えて3,000万円も差し引くことが可能です。
この特別控除によって、本来であれば発生するはずの課税が0円になるケースも考えられます。
空き家をそのまま残して3年以上売れず、その後の譲渡で税金を支払うのであれば、早いうちに解体をして売却後の税金を減らすことも検討しましょう。
国土交通省 空家等対策特別措置法について
管理の手間がなくなる
空き家は適切に管理しないといけません。もし、管理せず「特定空家等」として指定されると固定資産税の優遇がなくなったり、行政が代わりに解体を行い、その費用が請求されてしまったりします。
では、どのような空き家が特定空家等と指定されるのでしょうか。国土交通省が定めている「空家等対策の推進に関する特別措置法」によると、以下のように定められています。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われてないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
これらに該当するとみなされたとき、特定空家等と指定されます。
特定空家等に指定されてしまったら、改善を図らないといけません。
助言又は指導を受けても改善が見られない場合は勧告。勧告を受けても変わらなければ、命令、戒告と続いていきます。
勧告を受けても改善しないと固定資産税の優遇措置がなくなり、命令を受けても改善しないと50万円以下の過料が課されてしまいます。
それでも改善の余地がなければ行政が解体を代執行し、所有者に費用の請求をすることが最終的な措置です。
国土交通省 空家等対策特別措置法について
実際に解体の代執行となった事例を紹介します。
平成15年頃、事務所の縮小移転をした法人が、移転前の建物を管理せずに放置していました。市の巡回や近隣住民の相談があり、外壁や屋根の一部が崩落していることを発見。市の職員は所有者に何度も改善を働きかけましたが、経済的な理由で改善に至りませんでした。
その後の勧告や命令にも従わなかったため、平成29年に解体を代執行し、解体費用である約1,040万円を所有者に請求しました。
国土交通省 空家等対策特別措置法について
このように、指示に従わないことで多額の費用を支払うこととなります。また、近隣の住民の危険にもおよび、崩落による事故が発生した際は所有者の責任です。
早期に解体することで、管理の手間もなくなり、解体の代執行や事故を防ぐことができます。
周辺住民の苦情を防げる
たとえ適切に空き家を管理していたとしても、周辺住民から苦情を受けることが考えられます。
例えば、台風によって空き家の一部が飛散してしまったり、風や雪の影響で木の枝が隣家に入り込んでしまったりするケースです。
自治体によっては特定空家等に指定されていなくても、応急処置として住民からの苦情に対応した費用を所有者へ請求できる条例を定めていることもあります。自然災害などの被害は予測できない面もありますが、空き家を所有していると思わぬタイミングで苦情を受ける可能性があります。
もし、そこまで管理する余裕がなければ解体することを検討してもよいでしょう。
空き家を解体するデメリット
特定空家等に指定されずに適切に管理ができる。かつ、賃貸に出せる可能性がある空き家であるならば、解体するデメリットが発生してしまいます。このデメリットは主に金銭面で影響がありますので、3つの側面から解説していきます。
・収入源がなくなる
・固定資産税が高くなる
・解体費用と業者を選ぶ手間が発生する
収入源がなくなる
空き家を賃貸として貸せるのであれば、貴重な収入源となります。毎月の賃料がそのまま収入となるので、ストック収入として活用できます。
空き家を200万円で解体し、土地を1,000万円で売却できたとしましょう。
このときの収益は800万円となります。メリットでお伝えした3,000万円の特別控除が使えたのならば、課税はありません。800万円が、まるまる収益となります。
この収益でも充分に感じるかもしれません。しかし、空き家を少しリノベーションして、毎月20万円で貸し出せたらどうでしょうか。リノベーションに100万円かかったとしても5ヵ月で元が取れます。さらに、その後は毎月20万円の収益となるため、41ヵ月後には土地を売却したときの利益を超えることとなります。
このように、賃貸で貸し出せることは長期的に見て売却よりも大きな収益を上げる可能性があります。空き家を活用できそうなのであれば、解体したときと、しないときのシミュレーションを行ったうえで決断しましょう。
固定資産税が高くなる
不動産を所有していると、固定資産税と都市計画税を納めなくてはいけません。これらは毎年1月1日時点で不動産を所有している人が市区町村に納める税金です。
もちろん、土地や家屋にも課税されるのですが、土地に住宅用家屋が建っている場合、固定資産税は1/6、都市計画税は1/3に軽減される措置があります。空き家を解体してしまうと、この軽減措置が受けられず、納付する税金が高くなってしまいます。
具体的な軽減額は次の通りです。
【小規模住宅用地】(住宅用地のうち200平方メートル以下の部分)
固定資産税:価格×1/6
都市計画税:価格×1/3
【一般住宅地】(住宅用地の200平方メートルを超える部分)
固定資産税:価格×1/3
都市計画税:価格×2/3
固定資産税について、面積200平方メートル以下、空き家の課税標準額が500万円で土地が2,000万円のケースを考えてみましょう。固定資産税の税率は基本的に1.4%として考えます。
【空き家を残して軽減措置を受ける場合】
空き家:500万円×1.4%=7万円
土地 :2,000万円×1/6×1.4%=4.7万円
合計 11.7万円
【空き家を解体した場合】
土地:2,000万円×1.4%=28万円
以上のように、税金の面で考えると空き家を解体せずに残していた方が、16.3万円も納税額を抑えることができます。
したがって、年間の納税額の面で考えると、空き家を解体することはデメリットといえます。
解体費用と業者を選ぶ手間が発生する
空き家を解体するには、まとまった資金が必要となります。
一般的に空き家の一坪あたりの解体費用相場は次のように言われています。
構造 | 解体費用(一坪あたり) |
木造 | 3~5万円 |
鉄骨造 | 5~7万円 |
RC(鉄筋コンクリート造) | 6~8万円 |
立地条件や解体時期などによって変動はあります。30坪の空き家で考えても木造は90~150万円、鉄骨は150~210万円、RCは180~240万円の費用感です。
解体後に売却することを考えても、少ない費用とはいえません。さらに、業者によって解体費用は変わるので、信頼できる解体業者を見つけないと高額な費用になることが考えられます。
事業として建物を解体するには、解体業の免許を受けている業者でないといけません。しかし、解体業者はホームページを持っていないこともあり、情報収集が難しいのが実情です。
そのため、複数社に見積もりを取ってヒアリングを行い、判断する必要があります。たとえ免許を持っていて安い見積もりであっても、追加費用が重なり、最終的に高額な工事費用となることが考えられるからです。
見積もりを取ったら以下の点を確認することをオススメします。
- 追加工事や費用は発生するのか
- 近隣への案内や苦情への対応もしてくれるのか
- ゴミは正しく処分してくれるのか
- 解体工事の損害を補償する保険に入っているのか
解体には費用以外にもこのような手間がかかるため、事前にしっかりと準備をしておかなくてはいけません。
解体を検討するときは空き家の価値や手間を考慮しよう
空き家を解体するか迷っている人は、解体のメリット・デメリットを比較して最適な選択を行いましょう。
・売却が楽になる
・管理の手間がなくなる
・周辺住民の苦情を防げる
・収入源がなくなる
・固定資産税が高くなる
・解体費用と業者を選ぶ手間が発生する
管理する時間がなかったり、空き家を賃貸として貸すことが難しかったりするケースは解体するとよいでしょう。
反対に賃貸として貸すことができそうであれば、解体せずにストック収入を期待しつつ、税制の軽減を受けることが可能です。
空き家の解体は簡単に決められることではありません。空き家の価値と、自分が適切に管理できるかをバランスよく考えて判断しましょう。